00話<PK and PKK>

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三爪痕(トライエッジ)を知っているか?」

 最凶のPKKは夕日の光を背に受けながら、不思議と響き渡る声で言った。こちらは夕日の逆光のせいで、そいつ(、、、)の表情がよく(うかが)えない。間違いなく、笑っているだろうが。
「ハッ。なんだよ、それ」
 嘲笑(ちょうしょう)して余裕を見せてやったが、こんなことはハッタリにしかならない。実際俺は、首に当てがけられている大鎌(デスサイズ)に内心ヒヤヒヤしていた。いつでも殺される状況で、冷静になれというのは無理な話だ。

The World(こ の 世 界)』で死の恐怖=\―PKKのハセヲを知らない者はいない。選択したユーザーの半分以上から不評を浴びている最弱の職業である錬装士(マルチウェポン)でありながら、ジョブエクステンドのイベントをすでに二回おこなった、三つの武器を装備できる3rdフォームだ。
 ハセヲの外見は灰色の逆髪に両頬を走る赤い稲妻のようなフェイスペイント。悪魔の角を連想させるような赤と黒の突起鎧(とっきよろい)。悪魔の尻尾を連想させるような甲殻で覆った(たてがみ)
 そして、死の恐怖≠フ象徴ともいえる大鎌(デスサイズ)
 『The World』のPK達に恐怖を刻み込む最凶のPKKとして、PK界に激震を与えた有名人である。すでに百人のPKをキルしたとの噂も流れているぐらいだ。

 無知の子供に教えるように、ハセヲは話し続ける。
蒼炎(そうえん)(まと)った伝説のPKだ。そいつにキルされたPCは、二度とゲームに復帰できないらしい」
「――知らねぇよ、そんなバカバカしい話。あんたがそんな事信じてるなんて拍子抜けだぜ」
「本当に何も知らないのか?」
「だから、知らねぇって言ってるだろうが!」
 何を言っても、ハセヲは表情一つ変えやしない。俺の怒号はハセヲに耳に届いたのだろうか。それとも、ハナっから俺の話をアテにしてなかったか。
 ハセヲの表情は変わらないが、感情は感じ取ることが出来た。少なからずとも、落胆しているのが嫌でも分かった。
「ったく。お前も、あの情報屋も使えねぇな」
 つまらなそうに吐き捨てると、ハセヲは大鎌(デスサイズ)を振り上げた。死刑者の首を刈る執行人(エグゼキューター)のように。そして、ハセヲのひどく冷たい瞳が俺を見た瞬間。
 俺は死の恐怖≠感じた。
「じゃあな。久しぶりに()りがいのある相手だったぜ」

 ハセヲの振りかざす大鎌(デスサイズ)が空気を切裂く音が聞こえた。


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