Chapter-0<天に向けた誓い>

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 ――人が泣きながら産まれてくる理由を知っているかい?
 
 俺が幼少の頃。両親の死が理解できなかった葬儀場で、ある男が幼い自分に掛けた言葉。
 男の顔を覚えてはいないが、この言葉が九年経った今でも脳に深く刻まれて離れない。
「人間は、この世に生を受けた瞬間に死ぬことが約束される。だから、産まれてきたことを後悔して泣くんだ。人間だけじゃない。この世に産まれる全ての生は、必ず死を約束されている」
 その言葉には少し、寂しさと悲しみと切なさが含まれていたような、そんな覚えがある。
「だけどね。……その『死』は他人に決められていいものじゃないんだ。きっと、殺されるという『死』を迎えてしまった君のご両親は悲しんでいる。でも同時に、君が生き残ったことを喜んでいるはずだ」
 男は俺に綺麗に微笑んでいた。そして、その顔で重い言葉を口にした。
「君はご両親の分まで生きるんだ。自分で決めた『死』を迎えられるように。君の『死』を、決して他人に決めさせてはいけない」
 今でも、無責任な言葉だと思う。両親を失ったばかりの子供にこんな話をする大人がいるのかとさえも。
 そして、今の俺がある理由。俺の生き方を決めることになったのは次の言葉だった。
「いいかい? これは君と僕の約束。君が大人になったら、また会いに来る。約束を果たせていて、立派な大人になってるのかを確かめに」
 ――この約束が、三上天人(オレ)の消えかけていた心を蘇らせた。
 道理ではない、どんな理屈でもない。この約束が俺の全てになったのだ。
「やく、……そく?」
「ああ、……君と僕だけの、約束だ」
 ……その日以来、男とは会っていない。
 目を閉じれば昨日のように思えるこの思い出も、すでに八年前のこと。

 最悪な誕生日を迎え六歳になった三上天人(オレ)は大事な約束を守り抜くことを誓った。
 そして現在、十五歳の三上天人(オレ)はもう一つ誓いを立てた。
 それは天に向けた誓い。天国の両親に向けた、絶対の誓い。

「俺はあの日の真実を知りたい。親父とお袋が望んでいないとしても」
 揺れる電車の中、外を眺めながら呟く。眼前に広がるのは、新しくも懐かしいような景色。すでに電車に乗ってから三時間半が経過した。奈良から京都へ、そして新幹線で東京へ。後は各駅停車でゆらゆらと。
 さすがにお尻が痛いし、道中に購入した本も読み終わって退屈だったが、新天地を目の当たりにした瞬間そんな憂鬱は期待と不安で吹っ飛んだ。
『次は天浮橋(あめのうきはし)、天浮橋。お降りの方は開くドアにご注意ください』
 天浮橋町。両親が育ち、殺された場所。俺が育ち、約束を交わした場所。
 この場所は全ての始まりであり、全てを終わらせる場所。
『ドアが閉まります。ご注意ください』
 電車を下りたと同時に聞こえたお決まりのアナウンス、ドアの閉まる音。しばらくして電車が動き出した。天浮橋町の風が乾燥していた肌を滑っていく。
 まるで俺を歓迎するかのように追い風が背中を叩いた。

 駅から天浮橋町を眺め、風に押されながら俺は改札へと向かった。


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