03話<Flow Watcher>

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 午後五時。人が集まる時間帯なのか、タウンに戻ると『The World』の住人が増えていた。夜になれば更に人が増える。勉強しない学生、仕事をしない大人連中がな。
『The World』にはつくづく驚かされる。現実の街中を歩いているのとあまり変わらない映像が視界に広がっている。……これじゃ、いつか本当に現実と仮想の見境(みさかい)がつかなくなるな。
 そんなことを思いながらフィクスに『報告しに行く』とショートメールを送信した。するとすぐに返事が来た。『ごめん、別件が片付いてないんだ。終わったらこっちから連絡する』という内容。どうやら別の仕事が回ってきたようだな。ギルドマスターというのも大変だなと感心した。
 ……さて、どうするか。
 とにかく、突っ立ってるのもあれだから、久しぶりにマク・アヌを(めぐ)ってみるか。人混みを避けながら中央区へ向けて歩き出した。広場に出ると、たくさんのPCで(にぎ)わっていた。ここ中央区はギルドが露店(ろてん)を開ける場所でもある。そういうのもあるから、余計に人が多くなるのだ。ギルドショップには様々なタイプがある。例えば、武力的なギルドは武器だけを売っていたり、知的なギルドは呪文書を売っていたり、保護的なギルドは防具や回復アイテムなど。
 顔も見えない相手から物を買うというスリルもあったもんだが、血霧花(ちぎりばな)≠ヘ常に冷酷でなくてはいけないのだ。必要なものなど、PKすると脅してブン取ればいい。
 広場を通り過ぎようとしたとき、突然大きな声が聞こえた。広場の中心から聞こえたと思い振り返ってみると、驚くことに……ハセヲと和服の剣士が口論していた……!
 あの剣士には見覚えがある。【(つき)()】二番隊隊長――七支会(しちしかい)(さかき)だ。俺も少し前にお説教を喰らったことがある。やれPKを辞めろだの、やれ更生(こうせい)しろだの。言い回しが古臭くて、年配の教師に説教されているみたいだった。所詮は偽善者集団(ぎぜんしゃしゅうだん)の幹部言うことだと、全て聞き流していたが。
「なんで奴がここに……」
 すぐにでもハセヲに殴りかかりたい気分だったが、榊が居るんじゃ迂闊(うかつ)に姿を現すことができない。どうしようもないので、遠くから様子を窺う。さっきは口論と言ったが、実際喋っているのはほとんど榊だ。ハセヲは冗談のようで本気とも言える侮辱的(ぶじょくてき)な態度で榊を適当にあしらってた。PKやPKKといった単語が聞き取れる。おおかた、PKを力で()じ伏せるPKKがいるから『The World』の恐慌(きょうこう)は治まらないとか、そのようなことを言われているのだろう。俺も似たようなことを言われたから、今だけはハセヲに同情だ。
 やがてハセヲが一方的に話を打ち切り榊に背中を向けて歩き出した。と、今まで状況を見ていただけの呪紋士(ハーヴェスト)がハセヲに並んで声を掛け、喋り始めた。恐らく、榊の隊の団員だろうな。ハセヲに声を掛けるなんていい度胸してるじゃねえかと感嘆(かんたん)しつつ、成り行きを見ていた。
 なんと意外なことに、ハセヲは驚愕を顔に走らせて狼狽(ろうばい)していた。例えてみたら、古い友人にでも会った時のちょっとした気まずさというものに近かった。何がそうさせたのか分からなかったが、見ているだけで滑稽(こっけい)だった。そこに榊が追いついて、またハセヲを挑発するようなことでも言ったのだろう。ハセヲがケンカ腰になったその時、ハセヲは急に顔を(しか)め、次の瞬間には走り出していた。その姿はドームの方へと消えていった。遠くで見ていた俺も【月の樹】の連中も、ただ呆気に取られていた。
 ……一体、なんだったんだ。
 やがて『もう大丈夫だよ。神殿へ来て』という文面のメールがフィクスから届いた。それじゃあ事の結果を報告しに行きますか。中央区のワープポイントからドームに転送し、カオスゲートにブックマークから【△流れ()む 紺碧(こんぺき)の 滝殿(たきどの)】を入力してエリアへと転送した。


 転送されたエリアは、フィールドでもダンジョンでもない。モンスターもオブジェクトも一切ないロストグラウンドのようなエリアだ。ここはギルド専用エリア、(ぞく)にギルドエリアと呼ばれる場所だ。大きくなりすぎたギルドは、専用のエリアをCC社から与えられる。エリアのグラフィックはオーダーメイドで、様々なデザインや機能を取り入れることが出来る。
 【大運河】のギルドエリアは、簡単に言ってしまえば巨大な滝に隠された神殿だ。プラットホーム正面には、森林に囲まれて滝が存在している。滝壺には一本の石橋が架かっていて、それを滝に打たれながら渡ると、急に滝が止むと同時視界が開ける。
 ……そこには何度見ても壮観そうかんな光景が広がっている。
 リアルで例えるなら、洞窟の中に東京ドーム一個分の空洞があって、そこに大理石の神殿があるといったところだ。毎回、フィクスらしいデザインだなと感嘆と共に苦笑している。神殿をもう一度眺めてから、俺は神殿の扉へと向かった。
 神殿の入口である大理石の大扉の前には二人の【斬刀士(ブレイド)】がいた。右扉を守る是色(ぜしき)。左扉を守る是空(ぜくう)だ。リアルでは双子の兄弟らしく、PCも同型のものを使っている。何度もここに足を運ぶので、こいつらとは顔馴染(かおなじ)みだ。挨拶代わりに軽く手を挙げる。
「あ、ロストさん。こんにちわっす」と是色。
「最近、話を聞きませんけどPKはまだやってるんすか?」と是空。
 なんで敬語なのかというと、俺はフィクスの大事なお客様とギルド内で知られているからだ。……しかし、こいつらと話していると舎弟(しゃてい)を持ってる不良みたいな気分になるのはなぜだろうか。敬語に慣れてないのにムリしてるから違和感が分かる。
()りがいのある奴がいねぇんだよ。なんなら、お前らをキルしてもいいんだがな」
 俺の言った意味が理解できたのか、二人はビクリと身を震わせた。
「……おいおい、冗談だって。お前ら門番なんだからこんなことでビビってんじゃねぇよ」
「いや、だって……なぁ」
「ロストさんの言うことは冗談に聞こえないっすからねぇ」
「全く、俺よりタチの悪い客が来るまでに直しておけよ。ビビリ症」
 バンッと二人の背中を叩いて、俺は大扉を開け放ち、神殿内へと歩を進めた。


 神殿内の全てが大理石のグラフィックで出来ている。大理石の回廊(かいろう)を進むと、神を(まつ)る台があり、そこが転送装置となっている。転送すると、本部に辿(たど)り着いた。天上にある巨大なモニターが白い光を放ち、薄暗い空間を照らしている。その光に照らされて、一人一つの作業机に向かい、情報を処理するギルドメンバー達。その机から、床の大理石の深く彫られた(みぞ)に水が流れ、一本の主流へと繋がっていく。そしてその主流の終点には、団員の行動を監視するかのように、王座に座っているフィクスがいた。
「部下達の仕事を、高見(たかみ)の見物か?」
「違うよ。君から頼まれていた情報をデータパッドにしてたんだよ」
 俺の皮肉を込めた挨拶を気にすることもなく、フィクスは笑顔で返した。
「それで、どうだんだい? ちゃんとらしめてくれた?」
 俺は失笑して「ルーズは殺した。だがな、余計な手間が増えちまった」
「ここでは話し(にく)いことかい?」
「あぁ、ちょっとやっかいな話だ」
「それじゃあ応接間に行こうか」とフィクスは王座から腰を上げると、その後ろにあるドアを開けて中へ入った。ドアプレートには応接間と書かれていた。応接間とフィクスは言っているが、イメージとしては企業の社長室みたいだ。大きな大理石の机を囲むように、やはり大理石のソファが並んでいる。この部屋は主に、重要な用件で情報を買いに、または調査を依頼してくる奴と一対一で話し合うのに使うらしい。ソファに座り、フィクスと向かい合った。
「俺の情報をハセヲに売ってくれと頼みに来た奴がいたらしい。ロストが三爪痕(トライエッジ)の情報を知っていると言えば、ハセヲは必ず喰い付いてくるってな」
「その依頼人の名前は?」
「いや、名前は知らないらしい。外見だけ聞いてきた。左腕を巨大な拘束(こうそく)具で封印した銃戦士(スチームガンナー)だと――」
 ガンッ! と。突然、フィクスが机を殴りつけて立ち上がった。目を見開いて肩で息をしている様は、普段のフィクスからは考えられないものだった。
「……フィクス?」
「……その銃戦士なら知ってるよ。彼の名はオーヴァン。『The World』で変人≠ニ呼ばれていた男さ」
 フィクスは冷たい口調で淡々と告げた。「変人?」と俺は聞き返した。
「彼は【黄昏(たそがれ)旅団(りょだん)】というギルドのギルドマスターだった。そのギルドの目的は、マトモじゃなかったんだよ」
 急に饒舌(じょうぜつ)になったフィクスに、俺は圧倒されてなにも発言できなかった。

「君は黄昏の鍵(キー・オブ・ザ・トワイライト)≠チて知ってるかい?」

「キー・オブ・ザ・トワイライト?」
 俺はオウム返しに聞いた。
「ゲームの仕様を逸脱(いつだつ)してる、幻のアイテムさ。それを手に入れると、どんな願いも叶うと言われている」
「ゲームの中でだけ、だろ? そんな夢物語(ゆめものがたり)信じるほうがイカレ(、、、)てる」
「そう。だから彼はイカレ(、、、)てたんだよ。【黄昏の旅団】は黄昏の鍵があることを前提に探していた。ないかもしれない物を探すなんて、そんなリスクの大きいことなんてできるかい? ……これが、オーヴァンが変人と呼ばれている理由だよ」
 ……バカバカしいと思った。だが、今の俺は完全にこの話を否定できなかった。すでに三爪痕という、システムを逸脱した存在を認めているから。
「それで、旅団は黄昏の鍵を見つけたのか?」
「いや、見つけられなかったんだよ。……そうか、君は知らないんだよね。半年前に【TaN(タン)】ってギルドと【黄昏の旅団】が黄昏の鍵を巡って全面対決したんだよ」
「ギルド V.S ギルドか。所詮、お友達の不良ごっこだ。それで、どっちが勝ったんだ?」
「引き分け。どちらも黄昏の鍵を手に入れることは出来なかった。なぜなら」
 フィクスは一拍置いてから言った。「黄昏の鍵を手に入れたと思われるオーヴァンが、行方不明になったからね。つまり、オーヴァンは一人で黄昏の鍵があると思われる場所へ向かい、一人占めして姿を消したというわけさ」
「……仲間を裏切ったってことか。頭のイカレ(、、、)た変人がやりそうなことだ。でだ、フィクス」
 オーヴァンを嘲笑しながら、フィクスに質問を投げかけた。
「どうしてお前はそんなことまで知っているんだ?」
 その質問にフィクスは当たり前のように言う。「餌が欲しけりゃ巣を叩け≠セよ、ロスト。この情報は元・旅団の団員から得た証言だ。匿名希望でね、Aさんとでも呼ぼうか?」微笑をこぼしてフィクスは続ける。「話を戻すよ。その紛争の後【TaN】はギルドの不正(チート)行為が発覚して強制解散。【黄昏の旅団】はオーヴァンが不在のまま、団員が散り散りになって解散。だけど、他にも理由がありそうだね。……おっと、それについてはまだ調査中だからね」
 俺のセリフを先読みしたのだろう。先手を打たれてしまった。
「……それで? この話が俺になんの関係があるんだよ」
「オーヴァンは君の情報をハセヲに売るように仕向けたんだろう? 興味深い話じゃないか」
 言いながらフィクスは、一つのデータパッドを俺に渡してきた。受け取ってみると、パッドの表面にはたくさんの文字が並んでいた。これは【大運河】のみが使える特殊な技法で、収集したデータを『The World』で簡単に閲覧(えつらん)するために、データを一つの板に変換することができる。これがデータパッドと呼ばれるもので、指定した事項を音声検索を使い一瞬で表示してくれる。
「今分かっている限りのハセヲの情報をパッド化したから、とりあえず見てごらん。絶対に驚くからさ」
 パッドに向かって「オールファイル」と呟くと、全ての情報がパッド上に立体映像の文字として浮かび上がった。少しずつスクロールしながら文字に目を走らせていく。そして、ある一行に目を通した瞬間だった。
 俺はあまりの事実にただ絶句した。
 リアルの俺の表情をFMDが『The World』に反映する。俺の表情を見たフィクスは愉快犯(ゆかいはん)のように「ビックリしたでしょ」と笑った。その一行にはこう書かれていた。
 『ハセヲは半年前に【黄昏の旅団】に所属していた。半年前、PKされたところをオーヴァンに助けられ、旅団にスカウトされた。解散当時のメンバーでもある』……まさかハセヲとオーヴァンにこんな繋がりがあったなんて。
 そして、最後の行にはあるエリアワードが記されていた。俺は口に出して読んだ。
「……【△隠されし 禁断の 飛瀑(ひばく)】?」
「旅団が拠点(きょてん)にしていたロストグランド『アルケ・ケルン大瀑布(だいばくふ)』のエリアワードだよ。もしかしたら必要になると思ってね……」
 全く、こいつの情報網(じょうほうもう)には驚かされてばかりだ。手に入りにくいCワードまで完璧じゃないか。
「恩にきるぜ。それじゃあ、早速行ってくる。さっき中央区でハセヲを見かけた。もしかしたら、そこで会えるかもしれない」
「……そう。結局ハセヲが三爪痕に拘る理由は分からなかった。ごめん」
「いや、それは――」俺は応接間のドアノブに手を掛けて、告げた。

「近いうちに、本人の口から聞ける時が来るさ」


 ロストという名のPCを使っているということは関係ないが、俺はロストグラウンドが気に入っていた。物好きだとフィクスに言われたこともあったが、神秘的しんぴてきな閉ざされたエリアに俺は心惹(こころひ)かれていた。何も生きていないエリアにいることで、より強い喪失感(そうしつかん)が俺を(しば)り付けるのだ。まるで自分もグラフィックの一部に溶け込んだみたいに。
 ロストグラウンドがいくつあるかは知らないが、そこへのエリアワードを手に入れたときの矛盾(、、)した思考も幸福だった。【△隠されし 禁断の 聖域】【△隠されし 禁断の 絶対城壁】そして【△隠されし 禁断の 飛瀑】どんなエリアなのか楽しみだ。カオスゲートにブックマークから【△隠されし 禁断の 飛瀑】を選択し、転送した。

 巨大な滝に囲まれた隔離された石柱、というのが印象的なエリアだ。フィクスのギルドエリアよりも絶景だった。壮大な滝のカーテンが、絶えず奈落へと引き落とされている。
 プラットホームは円柱の天辺にあり、俺はそこから繋がっている円柱にへと足を進めた。ロストグランドは必ずと言っていいほど隔離された足場しかない。そして、必ずと言っていいほど――
 ――喪失の地には爪痕(サイン)がある。
 三爪痕が残した、円柱に刻み付けられた赤い爪痕。これはなんのために残されているのか……。メッセージ? いや、それだとしたら誰に送っているメッセージなんだ? 原因には必ず結果がある。奴の目的さえ分かれば、先回りすることができるだろうに……。
 と、ふいに上から静かな声が降ってきた。
「アナタが血霧花≠ニ恐れられるPKのロストですか?」
 刀が(こす)れる音が聞こえた瞬間、俺はその場から半歩後ろに下がった。空気を巻き込みながら振り下ろされた巨大な剣が、鼻の先を(かす)めた。
 反応が遅かったら、確実に瀕死(ひんし)だった。
 斬撃(ざんげき)を放った刺客(しかく)撃剣士(ブランディッシュ)の女は石柱から剣を引き抜き、こちらを向いた。整った顔立ちに作られたPCだ。明らかな敵意を放ってこっちを睨んでいる。冷静な表情を崩さない女は、やはり静かな声で告げた。
「死角から攻撃したのに見事な反応ですね」
「そんな攻撃、慣れればいくらでも避けられる」
 俺の冷たい言葉に女は微笑しつつ、真面目な口調で言う。
「ルーズをキルしたのはアナタですか?」
「ルーズ……。あぁ、あのゴミか。それがどうかしたのか?」
「彼は私のギルドの依頼人(クライアント)だったんです。ですが依頼人の立場を利用して、こちらの規約に違反する事ばかりしていた。だから、無断で彼の護衛(ごえい)()いて泳がせていたら……、アナタがルーズをキルしたというわけです」
 ……いまいち話が見えない。そもそも、それが俺になんの関係があるというんだ。
「……最初に話すことを忘れていないか? お前は誰で、どのギルドのマスターなんだよ」
 あっ、と。女は口を開けて固まってしまった。……もしかして、バカなのか? 女はしばらく悩んで、ようやく唇を動かした。
「……私の名はクオリスです。護衛屋ギルド【PaGu(パグ)】のギルドマスターを勤めております」
「護衛屋ギルド……【PaGu】か。聞いたことある。PKが増えた『The World』を安全にプレイするために、自分を護衛する高レベルPCを雇えるギルドがあるってな。……ご立派なお仕事じゃねぇか」
 最後のはもちろん皮肉――
「恐縮でございます」
 ――だったんだがな。疑うことなく首を垂れやがった。どうやら俺の皮肉は伝わらなかったようだ。真面目そうに見えて、どこか抜けてる奴だ。だが、どうしてだろう。初対面で最悪の出会いをしたはずなのに嫌いになれなかった。多分それは、見かけによらず強者だということを先の一撃で知ったからだろうがな。
「それで、その護衛屋が俺になんの用だ」
 するとクオリスは思い掛けない返答をした。
「ロスト。あなたは死の恐怖≠ノキルされましたね」
「!? なぜ、それを知っている……!」
「理由は簡単です。私もあの場に居ましたから」
「なぜあんな場所に居た!?」
「……ただの散歩です」
 冷たい微笑みを向けてくるクオリスは、氷で作られた肖像(しょうぞう)のように見えた。急に寒気が背中を走り抜けた。やはり、こいつは強いのだ。
「そういうことにしてやる。それで、俺に何のようなんだ?」
「ただ忠告をしに来ただけです」
「忠告、だと?」
 クオリスは、思わず見惚(みほ)れるほどの笑顔で俺に告げた。そして、その言葉は俺にとって障害以外のなんでもなかったのだ。
ただの幻(トライエッジ)を追うのは止めなさい」
 俺はクオリスを思いっきり突き飛ばし、プラットホームへ走った。
 ふざけるな! 何も知らない奴が、余計なこと言いやがって! 俺は振り返ることなく、ルートタウンに転送した。


 ルートタウンに着いた瞬間、ショートメールを受信した。差出人を確認せずメールを開く。俺はフィクスのメンバーアドレスしか知らない。だからショートメールはフィクスからだと思っていた。だが、内容はアイツが書くような文じゃなかった。
『全てを受け入れる覚悟があるのなら、グリーマ・レーヴ大聖堂へ参られたし。君の望むものが見れるはずだ』
 俺の望むもの、だと? 【△隠されし 禁断の 聖域】に行けば、それが見れるというのか!? 俺は差出人をチェックするために目を走らせた。
 そして、差出人にはこう書かれていた。

 オーヴァン、と。


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