02話…想いの交差-1 】                                       01話-2に戻る 話選択へ戻る 02話-2に進む

 蒼真そうま達は太陽の陽で光る、輝かしい森の中を全速力で走っている。
「おい、美春! 足速い!!」
「え〜? お兄ちゃんが遅いんだよ」
 兄の注意も(むな)しく、妹はどんどん先を進んでいく。
「なんだぁ〜蒼真? もう疲れているのか?」
「勝、お前は体力はあるんだからまだ大丈夫だろ! 僕はさっきも走ってたんだぞ! いい加減脇腹痛いって……」
 しかし、蒼真の必死の叫びは最後の方は全然聞こえなかった。
 蒼真達は獣道を進み、森を抜けた丘にある道場に向かっている。緩やかな道だが、道場まで距離がある。しかも、いままで通ってきた道には何本もの木が倒れてたりしていたので、回り道するだけでも大変なのだ。
 しつこいようだが、蒼真達が心の中で一致している意見は先生の罰≠セ。竹刀で容赦(ようしゃ)ないほどの肩叩き。たまに先生と1対1の勝負、というものもあった。蒼真達は、もちろん勝ったことはない。それどころか、攻撃を何度繰り返しても、一撃も(かす)りはしないのだ。
「ところで、いま何時だ!?」
 美春がここからでも見える、時計台を見上げる。
「うわぁ、説明してる時間も惜しいよぉ……」
「……それは大変だな」
 美春の顔が青くなっている。と、いうことは余裕がないってことだろう。と、蒼真は確信し、スパートをかけた。
「あと500mぐらい、走ればなんとか――ッ!?」
 大声を出したその瞬間、なにかに足を引っ掛け派手に飛んだ。
 ぬかるんだ地面を豪快(ごうかい)(すべ)り、ベチョッ、という謎の擬音を残して蒼真は倒れていた木に激突した。沈黙した蒼真の状況を簡単に説明するなら、頭から星が飛んでいるといったところだ。
 他の3人は、一番前に(おど)り出たはずの蒼真がいきなり消えたことで、足を止めていた。振り返ったところには、確かに蒼真がいた。それと――
「ふわぁあ…………む?」
 豪快に欠伸をして、背伸びし、目の前で星を回している蒼真を見、高志たちを見た、その人物。彼こそが、
「せ、先生……!?」
 『九牙(くが)朱鷺允(ときまさ)
 蒼真達が先生≠ニ呼ぶ道場の先生である。美春だけは師匠≠ニ呼んでいるが……。
 九牙はパッと見ると20代といったところで(本人は10代と言っているが、それは絶対にウソである。実年齢は一生の謎だろう)服装は着物という、実に和をとった服装である。
 その柄は赤紫色の散り桜で、少々変わった色であるそのデザインは、はたから見ればそれは紅蓮に燃える炎獄を連想させる色である。髪は長く、ひも(まと)められていて顔立ちはとても凛々しい。あと、睫毛(まゆげ)が長い。
 本人にとってはコンプレックスらしいが、黙っていれば両性どちらにも見られるという、中性的な顔の持ち主である。童顔という言い方もあるが、言ったら最後。斬られる。
「なんだ貴様ら? なにを息切らしている?」
「師匠こそぉ〜なんでこんなところで寝てたのぉ?」
 こんなぬかるんでいる地面で寝ていられるほうが不思議だと、誰もが思うだろう。
「私か? 私はだな――」
 なぜかそこで言葉が切れる。またか、と声に出さず高志が言い放つ。
「また覚えてないんでしょう?」
「…………ぅ」
 九牙が片手に持っている酒瓶が証拠である。九牙はとんでもない酒乱であり、酒に酔うとその時にしたことを全て忘れているという都合のいい脳髄(のうずい)を持っているのだ。たまに蒼真たちも酒を勧められるが、未成年なのでさすがに断っている。
 おおよそ今回は、木々がぎ倒されている状況を見ると、そうとう暴れたようである。せっかく森林開発で育てた木々を、こうも簡単に倒されると悲しいというか、寂しい気持ちになるだろう(九牙は覚えてないのでどうしようもないのだが)。
 どれだけ首を(かし)げても無駄だと分かったのか、
「ふむ……やはり覚えていないようだ」
 やはりそう言った。
「まったく先生は……、一人のときにお酒を飲むのは禁止、ってあれほど言ったでしょう。まったく。一体どうするんです? 倒れてる木は?」
 勝も呆れながら言う。そのころ蒼真は美春の高速肩揺(かたゆ)らしによって強引に覚醒させられていたところだった。
「そうだな。ちょうどいい。道場の屋根が剥がれているから穴埋めと、補強に使う。あとで貴様らにも運んでもらうからな」
 頭を抑えながらフラフラ歩く蒼真は、その言葉に対して、
「目覚めたばかりで悪いんですけど、これって先生の不注意が原因ですよね? なんで僕たちが運ばなくちゃいけないんですか」
「修行だ!」
 その一言を言われては、生徒たちは何も言えないのを知っていて、九牙はそう言っているのだろう。意地悪な大人だ。大人気(おとなげ)ない。
 九牙が高志たち(主に美春)と口論している。蒼真はそんな光景を眺めながら、緑が(しげ)る森を見てみる。
 この村にやって来たときから変わっていない。そしてそれは・・・、ハッキリと分かる。道場に来るたび、その痕跡を見てきたからだ。
 人間の努力の痕跡を。
 人間の努力の結晶を。


 この丘に近辺に植えられている森の一部の木々・・・・・・・・・・・・・・は全てが等間隔に並べられている。等間隔に植えられているということは、人工的に創った。というふうに捉えてくれるとありがたい。
 これが人類による、森林開発の一環である。森をよく見渡せば自然に育った木と、人工的に植えられた木の違いは分かる。人工的に植えられた木々の所だけ日光の陽射ひざしが広いのだ。森を見渡せば暗いところと明るいところで、こまごまと分かれている感じだ。
 それでも、人間の手でここまで緑を増やせるのだ。地球の森林化に参加した人々が、どんな思いで木を植えていったのだろうと、蒼真はふと考えてしまう。


 何本かの木を倒した張本人は、生徒の声をまるで聞いていないような顔だったが、やがて一言。
「今は何時なのだ?」
「あ」
 その一言で、生徒たちはアホ面になった。時が止まっているようだ。
「10時はすでに過ぎているようだが……。さて、どうするか」
「先生が、こんなところで寝てたのが悪いんじゃないか……」
 と、蒼真はうっかり口に出しそうになったが、本人の前でいうほど度胸(どきょう)はない。
「仕方ないか。久しぶりに、私と真剣試合だ!」
 ようやく時が動き始めたのか、アホ面の生徒たちの表情こわばる。一番恐れていたことが怒ってしまったからだ。この際なら、竹刀で容赦ないほどの肩叩きのほうがマシだったろう。
 ただ美春だけが、
「やったぁ! 師匠と試合だぁ〜」
 などと、一人笑みを浮かべている。余裕なのか、楽しみのか。どっちなんだ?
「私と話していなければ遅刻でなかったはずだからな。試合形式は、そうだな。貴様ら全員で私にかかってこい」
 とりあえず、自分のせいだといことは分かっているらしい。
「4人、で……!?」
 皆の心中しんちゅうは驚きと期待に満ちている。それは期待のほうが勝っているだろう。先生に勝てるかもしれないというのは生徒にとっては、めったにないチャンスでもあったからだ。4人がかりでも、それは同じことだ。
 例え、それが正式なものでなくても、生徒のやる気を起こさせる機会でもあった(と、九牙は思っている)。
 それを知ってかしらずか、
「師匠ぉ! 早く行こうよぉ〜!」
 美春が、また先を行っていた。
「だから先に行くなって! 美春!」
「高志も大変だな」
 と、ぼやいて勝があとに続く。
「試合を始める前から、元気なやつだな、美春は」
「そうですね」
 蒼真は九牙の温和な声に朗らかに返事をし、美春を追って駆け出した。
 
 木の、後片付けもしていないのだが。
 唯一、それに気付いていた九牙は、
「まぁ、あとであいつらに運ばせるから、……いいか」
 と、誰にも聞こえない小さな声で呟いたのだった。
 

01話-2に戻る 話選択へ戻る 02話-2に進む