02話…想いの交差-2 】                                       02話に戻る 話選択へ戻る 03話に進む

 ナクラル村、丘の上にある道場『戯斉冠ぎざいかん』で先生の罰≠ニいう、弟子と師の試合が(おこな)われようとしていた。
 戯斉冠は木造の道場であり、その外見は創られてから数十年経っているにも関わらず、どこか威容な雰囲気を感じさせる。創設者は九牙の師匠である先代の師範なのだが、彼に関する資料は写真すら残っていない。
 そして現在の師範、九牙(くが)朱鷺允(ときまさ)の弟子は4人。もともと、この小さい村では稽古を受ける年齢に達しているのはこの4人しかいないのだ。稽古を受けられる年齢は、12歳を越えてからと決まっており、それを通過しているのは、蒼真たちだけなのである。
 そして師である九牙と、弟子である蒼真そうま高志こうし(まさる)美春(みはる)は試合場で向かい合っている。普段着のまま、剣道の道具、竹刀だけを持って。防具も一切着けず、武器を持っているだけである。
 防具を着けていないということで、蒼真には不安が感じられた。高志や勝も同様だったが、美春だけが楽しそうな顔をしていた。蒼真には分からなかったが。
 そして、九牙が弟子たちに言う。
「防具がなくて不安か? そんな調子では、まともな試合にはならんぞ」
「でも、先生。防具がなきゃ結構痛いと思いますが……」
 蒼真が代表して講義の声を上げるが、九牙は瞬きもせず、
「確かに痛いだろう。だが私も防具は着けていない。公平だ。それとも、……なにか不満か」
 言った直後、九牙の眼孔は鋭くなり、弟子を睨み付ける。九牙は冗談でこんなことはしない。本気なのだ。蒼真たちが(ひる)んだのを微笑し、九牙は竹刀を構えた。
「では、試合開始!!」
 その掛け声の瞬間、4人は一斉(いっせい)九牙がいた場所(・・・・・・・)に飛びかかった。
「え!?」
 そこに九牙の姿はすでになかった。音速の速さ、九牙の抜足(ぬきあ)し≠ナある。開始を宣言した瞬間、九牙も動いていたのだ。蒼真たちの真後ろへ!
「貴様らの動きは正直すぎる」
 刹那、鞭のような連太刀が蒼真たちを襲う!
「――っうあ!」
 と、苦痛の声が次々に上がる。防具もなにも着けていない、その背中を竹刀で強打され、とてつもない痛みが蒼真たちを襲う!
「どうした、その程度で終わりか? 一撃すら放ってず、無様に散るのか! 貴様らの本気を私に見せてみろ!!」
「先生……!」
 蒼真が1人立ちあがる。その蒼い眼には、強い決意が感じられる。その奥になにを秘めているのか、九牙には興味が()いた。
 竹刀を構え直し、蒼真に向き合う。
「いいぞ、その眼だ。来い、蒼真!」
「うぉぉぉおおお!」
 蒼真は正面から突っ込んだ。そのスピードは先程以上に速い。
 九牙は蒼真の、疾走から繰り出される攻撃をどう流すか考えていた。
 だがその思考は答えを出す前に遮断された。わずか2歩で蒼真は、目の前まで来ていたのだ。九牙の抜足(ぬきあ)し≠ノも劣らない速さで!
(ちぃ、考を焦ったか!)
 九牙が竹刀を振ると同時、蒼真は竹刀を振り下ろす!
「っだあ!!」
 バシイッ、と竹刀のぶつかり合う音が道場に響いた。だが、
「なかなかだな、蒼真。だが!!」
 九牙は蒼真の竹刀引き寄せ、その反動で押し返した。そして薙ぎ払うような一撃を蒼真に与える。
 ドグッ、と鈍い音と共に、蒼真は吹き飛ばされてた。胸の辺りに激痛が走り、肺の空気を全て押し出されたように、唸る。一瞬、頭が真っ白になった。
「けほっ、ぐっ!」
 蒼真は痛みを感じながらも距離を取る。すると背後で、人が動く気配。振り返ってみると、背中を打たれた痺れが解けた3人が立ちあがっていた。
「蒼真大丈夫か!?」と、勝。
「一人で突っ走るなよ」と、高志。
「威嚇なら任せてよぉ」と、美春。
 皆が力を合わせようとしている。これは蒼真にとっても喜ばしいことだ。
 だが、それでも九牙に……尊敬する先生に勝てるだろうかと考える。
(いや、勝つんだ! ムリだと思うな!)
「一撃でも与えるんだ!! いくぞ!!」
「おう!!」
 蒼真の言葉を受け、全員が行動を起こす。その間に九牙は抜き足≠ナ接近していた!
「せいっ!!」
 一太刀、その鋭い一撃を勝が竹刀で受け止める。
「受け止めるだけでは、まだまだダメだ!!」
 九牙は竹刀を押し返す形で、前に跳ね飛ぶ。
「え!?」
 勝はその反動で後ろに押されたところで、胴の一太刀をくらった。
 ドガッ、とその巨体が衝撃で飛ばされる。
「ぐっ!?」
「判ったか!! 流れるように攻撃をしかけるんだ!! 攻撃を受けとめたあとのことも考えろ!!」
 勝は力が入らないように、グッタリしている。だが、
「てえぇぇい!!」
 高志はその隙を見落とさなかった。素早く九牙に攻撃をしかける。竹刀を力強く振るう!
 だが、九牙はその一撃を素早く後ろに一歩引くことで避けた。九牙の前髪がなびき、そこに竹刀が空を切る。
(そんな!?)
 高志は竹刀を振った反動で前にバランスを崩した。
「っ!?」
「惜しかったな、高志」
 九牙が今度はその隙を突いて、強烈な突きの一撃を与えた。
 ドッ、と高志の肋骨の間を狙った攻撃が高志を突き飛ばした。
「――がっ!?」
 無防備の状態でくらった高志が力なく倒れる。だが、高志は、ニヤッっと笑っている。
「!?」
 ――なにを笑って!?
 九牙は思った瞬間背後に気配を感じた。反射的に振り返るとそこにはすでに、竹刀を振りかざしている美春がいた!
「なに!?」
「もらったー!!」
 これは避けきれないと美春も思っただろう。だが、九牙は逆に美春に向かっていった。
「悪い」
 ドンッ、と九牙は美春の体を突き飛ばした。
「きゃっ!?」
 九牙の予想外の当て身をくらった美春は吹っ飛んだ。しかし、
「えいっ!!」
「な――」
 美春が竹刀を、九牙に向かって投げた(・・・)
「――にぃ!?」
 九牙も、これは予測できなかった。試合中に武器を捨てるやつなどいないからだ。九牙は慌てて(・・・)それを(はじ)く。そして、(わずか)かに自分の手が震えていることに気付く。
(まさか……この私が動揺しているだと!?)
 信じられないことだが自分が動揺していると、ハッキリ分かる。
 今までとは違う弟子の動き。予想外の行動。これは……この動揺は今までの行動からではない。弟子が師に打ち勝つ、ということに恐れを覚えたのだ。
(こいつらは……私を超えられるかも知れん)
 それは辛いことでもあるが、嬉しいことでもある。弟子が師を超える。超えてほしいのが師の願いでもあるからだ。
(それは、どれほど未来の話しになるか分からないが、その時が来るまで、私は師として!!)
 そして竹刀を弾いたその向こうから蒼真が疾走してくる。
「皆が繋いでくれたんだ! 絶対に当てる!!」
「来い、蒼真!!」
 蒼真は竹刀を振り下ろす!
 九牙は竹刀を切り上げる!
『――ォオオオオオオオオオ!!』
 重なる声。空気の切れる音。遅れてくる打撃音。
 パァン、という渇いた音が鳴り止んだとき――――
 
 1人が、竹刀を握り締めたまま、倒れた。


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