05話…旅立ちの意志-3 】                                   05話-2に戻る 話選択へ戻る 06話-1に進む

 村長の家。日の光が窓辺から差し込み部屋を照らしているが、そんな光を気に()めないほどに室内は緊張に包まれている。
「まず約束してください。私の話しが終わるまでなにも喋らないでください。それまで質問もなしです」
 少しの間を置いて。雅人は語った。

「今から16年前、私は地球連合軍アジア連邦の研究所に勤めていました。私はそこで重要な研究に着手していました。その研究を始めるキッカケになったのは、26年前の『文明の凍結』です。当時の機械兵器の全てを使用不可能にされた連合軍は、情勢に不満を抱いていた反抗勢力(レジスタンス)の攻撃を受けました。銃なんて反抗勢力も簡単に手に入るものです。お互いに削りあうだけの消耗戦。このままでは軍の力は人の力と変わらない。
 だから軍は、新たな力を手に入れようとしました。それが『アビリティ・プロジェクト』と呼ばれる、人を超えた能力を持つ人間の開発だったのです。そして、私には同期の仲間がいました。岡崎という男、そしてこの村を襲った霧影です」
 ――――霧影が!? と、蒼真は声が出そうになったのを堪えた。体の震えが止まらない。
「私達は互いを助け合いながら研究を続けました。研究を開始して2年後、霧影は研究所から去りました。それからしばらくして、軍の部隊長になり、私と岡崎は『アビリティ・プロジェクト』の最高責任者になりました。だがその研究は次第に()えられるものではなくなって来たのです。
 それはもはや人体実験。薬物投与。身体のいたる部分を弄繰(いじく)り回し、果てには殺し合いの餌として処分する。実験の初期段階では数々の犠牲者を出しました。そして何人目かの実験体でヒントを得てしまった。『文明の凍結』後に生まれた人間が覚醒条件が高いということを。もちろん、それを知った軍の上層部は若い実験体を求めるようになったのです。
 さらに3年後には『文明の凍結』で原因になった化学粒子(ダガージェイド)が生態系に影響したように、人間にも影響することが判りました。最終的には化学粒子を特殊な形で取りこんだ親から自然受胎で生まれた子供が対象になりました」
 それから何人もの子供で実験を繰り返しました。と、苦々しくそう雅人は付け加えた。
「そしてその1年後、今から10年前ですが、13人の成功体を完成させました。その子供達にコードナンバーAPを与え、能力の訓練を開始しました。APは『アビリティ・プロジェクト』から取ったものです。
 しかし、訓練を進めていくうちに恐ろしい事態が発生しました。自己の能力を認識した子供たちが軍に反抗してきたのです。子供たちの能力は自然を媒介にしているため、道具しか使えない我々は対処しきれませんでした。こちらの研究者を何人も殺されました。しかしこれは考えられる問題でした。今思えば、何人もの人間を実験のために利用し殺してきたか。まだ5、6歳の子供達にもそれは理解できることだと思います。子供たちから見たら、私たちは悪魔だったのでしょうね。
 これを対処するため軍の上層部は、子供たちの精神に特殊な細工を(ほどこ)し精神操作をするように命令してきました。霧影は軍の上層部に近づくほど戦いを好むようになり、上層部の意見に賛成しましたが、もちろん私と岡崎は反対しました。・・・・・・それで私達は幽閉(ゆうへい)されてしまいましたが、何日か経った後。それは起こりました。一部の反抗勢力に研究所で行っている実験を知られてしまったのです」
 蒼真はこの時ある確信に至った。そう、今まで何度も見てきたじゃないか。
 亀裂の入ったアスファルト、黒煙の空、赤く染まった地平線。悲鳴怒号笑い声。
 蒼真の目の焦点はズレていて、耳に神経を集中させている。
 いや、一語も聞き逃さないようにしているのだ。
「研究所は攻撃され、そのどさくさで私と岡崎は地下壕から逃げ出すことが出来ました。すぐに研究所へ向かいました。ですが敵の攻撃でAPの3人の子が瓦礫に潰されてすでに亡くなっていました。この状況ならば、なんとか残りの子だけでもと思い、私と岡崎で開放した子供を、残った同志の研究所職員に任せ、私と岡崎で互いに1人を保護し、燃える研究所から脱出しました。しかし精神操作の後遺症で、双子の兄妹が記憶喪失になっていました。・・・・・・そのうちの、1人が・・・・・・蒼真でした。私が蒼真を、そしてもう1人の子は・・・・・・蒼真の双子の女の子です。岡崎がその子を連れて反対方向に逃げました。そして行くあてもなく、北へ北へと逃げ続け、辿り着いたのがこのナクラル村だったのです。
 それから先は皆さんの知っている通りです」 
 一瞬にして部屋中の空気が重くなった。
 村の人々は無言のまま雅人を、蒼真を見つめる。
 こんな、歪な形の思い出なんて、思い出さないほうがいいのか。
 蒼真はそう考えてしまった。

 これが、誰も知らなかった、過去。
 そして現在への、呪縛。

「これが私の知っている全てです。私のせいでこんなことに・・・・・・申し訳ありませんでした!!」
 長い、長い話が終わった。それと同時雅人は起きあがれない下半身を拳で打ちつけ、涙した。
 誰もが声を掛けられない中、ゆっくりと村長が口を開いた。
「雅人。我々はお主らがただの難民ではないことは薄々感づいていた。我々も覚悟無く余所者(よそもの)の移住を受け入れたわけではない。いつかこのような日が来ると思っていたのじゃ。・・・・・・一度受け入れたが最後、お主らは我々ナクラル村の住人、我々はなにも責めない。大丈夫じゃよ」
 それは本当に優しい口調だった。次に九牙が口を開く。
「雅人、あとで細かい話を聞きたい。例えば――剣のことを」
「分かりました。九牙さん、それでは後ほど」
 そして、ついに蒼真が口を開いた。
「――あの、……話してくれてありがとう、父さん。僕とここまで一緒に逃げてくれて・・・・・・。でも、さすがに人を使って研究をしてたことは驚いたけどさ。僕が覚えている父さんが、僕にとっての父さんだから。だから、二つだけ聞いていいかな?」
「・・・・・・なんでも聞いてくれ。全てを話す覚悟で今私はここにいるんだ」
「その、双子っていうのはどういうこと・・・・・・?」
「蒼真と、その子の名前は紅葉というのだが、君たちは実験対象での唯一の双子だったんだ。双子での能力反応を確認する実験の対象だった。私と岡崎はこれも反対した。精神に負荷の掛かるようなことは絶対にするなと、あれだけ・・・・・・言ったのに・・・・・・」
 最後のほうは弱々しい声だったが、蒼真は発言をやめない。
「最後に・・・・・・・・・・・・記憶がなくなる前なんだよね。僕が能力を使えるようになったのは・・・・・・?」
「あぁ、そうだ・・・・・・」
「それじゃあ父さんは、僕や、紅葉……を、なんで実験体に、したの?」
「・・・・・・蒼真。まだ、言ってないことが、あるんだ・・・・・・とても大切なことだ」
「もう、・・・・・・大丈夫。もう全てを、受け入れる覚悟は、出来ているから・・・・・・」
 そして雅人は最後の錠を、外した。

「私は・・・・・・君の、本当の、父親じゃ、ないんだ。君の本当の父親は、軍の上層部の人だったんだよ」


 覚悟していたとはいえあまりにも冗談がきつかった。10年も一緒に暮らしてきた父親が父親じゃない? ・・・・・・あまりに出来すぎたストーリー。あの夢に出てきた燃えている建物は研究所だったのか・・・・・・。まだ謎はたくさんあるけど昔のことを少しでも知れたのは幸いだった。
 だが、蒼真がここにいたから奴らはこの村に来たんだ・・・・・・。
 それだけはハッキリしていた。


 結局その日はいつもと変わらなかった。怪我の治療のため九牙は休養、蒼真も肩の傷が完治するまでベッドで寝たきりだった。雅人は上半身こそ起きあがれるようになったがまだ足が動かなかった。
 1日中ベッドで美春達の話しを聞いていた。やはりなにも変わっていなかった。
 なんであんな話しがあったのになにも変わらないんだろう、と蒼真は思う。
 昨日今日で衝撃的なことがありすぎて頭がまだ整理できていないが、もう決めたことはある。
 そう、傷が治れば・・・・・・。


 次の日は正午の鐘が鳴ってから目が覚めた。
 すっかり日が昇り、太陽の日が眩しい。
 蒼真を外眺めると、まだ残っている水溜まりが目に入った。途端、思い出した。
 ――――そういえば忘れていた。・・・・・・あの剣はどうしたんだろう?
 左側を見てみると雅人が窓から外を見ていた。
「あの・・・・・・父さん」
 昨日あんな話があったあとだから『父さん』と呼びにくかったが。
「あ、おはよう蒼真。どうかしました?」
 いつもと態度が変わっていないのが逆に嬉しかった。
「僕が、……霧影を斬った時に使った剣を知らない?」
「剣? あぁ、九牙さんが言っていた剣だね? 今は九牙さんが道場に持っていったよ。その剣は蒼真に反応したらしいね。どうやら蒼真の能力と共鳴する武器らしい」
「でも、その武器は一体どこで?」
「・・・・・・あの剣は元々、APを別の方向で見ていた研究所にあったものだ。詳しいことは相応の設備がないと判らないんだが」
「研究所・・・・・・でも父さんはそれを」
「知らなかったさ。でも軍がAP専用の武器を開発していたことは知っていた。恐らくAP達のDNAを武器に組んだのだろう。でもまさかその武器がこの村にあるなんて・・・・・・おかしいと思わないか?」
「・・・・・・先生はあの剣は先代が持っていたものだと言っていたけど・・・・・・」
「先代がなにか知っていそうだが・・・・・・先代はいまどこに?」
「先生の話しじゃ、行方が判らないそうだよ。ある日突然消えたって・・・・・・」
「剣の出所を知りたかったのだが、しょうがないか。ところで蒼真。お腹空いていないか?」
「……実はハラペコ」
 二人で声を出して笑う。
 そうだ、血は繋がっていなくても親子以上の絆があるんだ。蒼真はそう思った。
 と、そこへ、
「ほっほっほ。目を覚ましたな。ほれ、朝食には遅いが食べなさい」
 村長が蒼真に、と朝食を持ってきた。とても上手に焼きあがったパンだった。ピーナッツバターのいい匂いがした。
「村長、おはようございます。すいません、わざわざ」
 蒼真は朝食を受け取ると真っ直ぐに村長を見た。
「村長」
「む? なにかね?」
「あの、僕・・・・・・傷が治ったら村を出て世界を見て回りたいんです」
 そしてちらっ、と雅人を見る。雅人は軽く息を吐き、
「・・・・・・私は止めないよ、蒼真。自分で決めたことなのだろう?」
「うん。僕、そのAPを、仲間を探したいんだ。もしかしたら僕のように軍から襲われているかもしれない、だから、探したい! AP09が望んだように・・・・・・」
「彼の意志を継ぐのだね? でも、それは簡単なことじゃない。AP(アビリティ・プロジェクト)の子供達は日本のどこに居るかも判らない。
 ――もしかしたら外国まで行っているかもしれない。それでも探すのかい?」
「うん。それに双子、紅葉にも会いたいしね」
 そしてニカッと笑い、トーストにかぶりつく。
「うん、おいしい」
「ほっほっほ。なかなかいけるじゃろう」
 村長が紅茶を淹れながら言う。
「できれば私も一緒に行きたいところだが、なんせ足が動かないからな」
 雅人は残念そうに苦笑する。
「大丈夫だよ、父さん。だからちゃんと完治させるんだよ」
「はいはい」
 そしてまた笑う。
 雅人は改めて蒼真に問う。
「旅立ちはいつにするんだい?」
「・・・・・・2日間は安静って言われたから、3日後かな」
「3日後か・・・・・・」
 それは長くもない残された時間だった。
「ほっほっほ。では旅に必要なものはワシが準備しよう」
「ありがとうございます。村長」
 そしてしばらくすると道場のメンバーが御見舞いにやって来た。そして旅立ちのことを話す。反応はまちまちだったが、驚いたのは美春だけだった。
「えぇ〜!? たった3日しかないの〜!!」
 美春は少し涙ぐんでいる。しかし、高志と勝は、
「まぁ、なんかやっぱりかぁ、って感じだよなぁ」
「蒼真があんな話を聞いてただなにもしないなんて、ありえない! って思ってたからな」
 違いねぇ、と2人は笑う――その後ろで美春はポカポカ蒼真を叩いている。
「私達も一緒に行きたいとは思っているが、このありさまだし、こいつらはまだ修行を完遂していないからまだ無理だな。蒼真が帰ってくるまでに修行が終わっていればよいのだが」
 九牙は残念そうに苦笑し、こう加えた。
「それに村で医者は私1人しかいない、今はまだ村を出ることはできないよ」
「皆心配しすぎだよ。僕は1人でも大丈夫だよ・・・・・・寂しいけどね」
 不安よりも、強い誓いが蒼真の心を満たしていた。


 そして次の日。
 蒼真は左で寝ている父親と、今まで以上によく喋った。
 あの日をきっかけに昔のことをよく話してくれるようになったからだ。
 研究所では? APの子供達はどんな子達だったのか? 岡崎さんは? 紅葉は? と、蒼真の質問攻めには少し参っているようだったが、それは楽しそうだった。
「AP達の資料はその研究所跡地(あとち)で見つかるかもしれないが、もしかしたら・・・・・・いや、すでに反乱軍に占拠されているかもしれない。彼らもまた力求めし者だからね」
「ここから南にある研究所まで、歩いていくのかぁ……。どれぐらいかかるのかな?」
「それなら大丈夫だ。実は研究所から脱走する時に、別班が開発していた蒼真専用の能力応用物資を持ってきたのだ。今も家の屋根裏に」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってよ! 俺専用!?」
「あぁ。きわめて重要なものがゴロゴロとな。なんども言うが武器については知らなかった。だが能力を利用した戦闘用以外の物での開発には参加していた。そういう開発が得意な同僚がいてな・・・・・・おかしなやつだったがお前達のことを可愛がっていた。お前たちが苦しい思いをしないように、出来るだけのことはしていたやつだ」
「――会ってみたいなぁ・・・・・・その人に」
「彼女はAP04についている。いずれ会えるさ」
「うん」
「それで、さっきの話の続きなんだが屋根裏に青い箱が隠してあるからそれを取ってきて欲しいんだが」
「旅に役立つものはちゃんとあるんだろうね・・・・・・?」
 少し怪しい感じがする。その開発されたものが怖かったのだ。
 パンドラの箱でも開けるのかと、蒼真は思った。
「大丈夫。明日中身を見てみれば判るよ。――――ふあぁ、眠い。・・・・・・寝る」
 そう言うとすぐに目を閉じ雅人は夢の中へ。
 寝るのが早いなぁ、と思いつつも心のどこがで笑っている蒼真がいた。


 ついに旅立ちの日の朝が来た。まだ日は昇りきっていないが充分に暖かさが感じられた。
 蒼真は肩の包帯を外す。
「・・・・・・こりゃ驚いた」
 傷口は完全に閉まり、治療の跡は少し皮膚の色が違うだけで全く気にならない。それに痛みも全くない。
 こんな派手なケガは初めてだから恐れもあったけど治るもんなんだな、と蒼真は思った。
「さて、と」
 ベッドから降り、靴を履いて外に出る。
「またあとで、父さん」
 まだ眠っている父親にそう言い残し、家へと向かった。

 3日ぶりの我が家はとても懐かしかった。
「・・・・・・さて屋根裏だったかな」
 蒼真は2階、自分の部屋の物置に入り、はしごを使い屋根を開ける。
 入った瞬間に大量のほこりが舞った。
「うわっ、汚いなぁ・・・・・・」
 蒼真は早く箱を見つけようとほこりの中を進む。そしてタンスの上に置いてある青い箱を見つけた。
 宝物でも入っているんじゃないかと思うぐらい大きな箱だった。
(なにが入っているんだ・・・・・・?)
 思わず苦笑した。これ荷物に入るかな? と、思いつつ屋根裏から降りた。
 そして荷造りをし、必要最小限のもの(青い箱も)を持って再び村長の家に向かった。
「っと、その前に・・・・・・」
 自分の家に向き直り、
「今までお世話になりました!! また帰ってきます!!」
 深く一礼、踵(きびす)を返して今度こそ村長の家に向かう。

「おかえり蒼真。やけに早かったね」
 村長の家に戻ると雅人が身体を起こしていた。
「父さん、もう起きれるの?」
「あぁ、まだぎこちないがなんとかな。寝たまま見送りなんてしたくないからね。村長が車イスも用意してくれた。これで完璧だよ」
「――ホントに村長には敵(かな)わないなぁ」
「あぁ。それじゃあ箱を机の上に置いてくれ」
「判った」
 蒼真は雅人の近くにあった机の上に箱を置く。机いっぱいの大きさだった。
「それじゃあ開けるよ」
 蒼真が箱を開けるとそこには、
「・・・・・・靴と布切れと銀の指輪? あとペンダントかな?」
「その靴は『水動力の靴(イディアル)』、小さな水蒸気爆発が起こる仕掛けになっている。
 その推進力で身体を自由な方向に加速させることができる。移動には便利だろう。・・・・・・まだ試したことはないが失敗作じゃないのは確かだ。あいつの腕を信じよう」
「靴は判ったけど、この指輪にはなにも付いてないよ? それにこの布切れだけど変な紋様が描いてあるだけで」
「指輪・・・・・・そんなものあったかな? 開発するようなものじゃないし。まぁ、その布切れのほうだが、それは天河の聖杯(リヴァーアーク)≠ェないと使えないが、必要なものだ。必ず持っていきなさい」
「・・・・・・うん。なんか信用ないけどね」
「さて、最後のペンダントだが――」
「うわぁ起きるの早いねぇ〜」
「おはよ。なにこの箱?」
「おはよう。なんか怪しいものばっかだなー」
「おはよう雅人。蒼真、剣を持ってきたぞ」
「ほっほっほ。旅に必要なものは揃えてきたぞい」
 道場メンバー+村長乱入。
「・・・・・・おはようございます」
「・・・・・・おはよう」
 雅人と蒼真は、まぁいつも通り、と流した。いちいち気にするなと反射的に思う。
「ん〜? なにそのペンダント?」
 宝の山を目にした美春はメチャクチャ興味津々だった。
「このペンダントはね」
 雅人がペンダントの縁にあった出っ張りを押すと、カチッ、と音がしてペンダントが開いた。
「ぁ・・・・・・」
 蒼真は小さく声をあげた。ペンダントの中には写真が入っていた。

 写真に写っていたのは幼い蒼真と幼い女の子、そして雅人と白衣を着た男の人。

「これって・・・・・・」
「あぁ、蒼真の隣に写っている女の子が紅葉だよ。そして紅葉の隣の男が岡崎、岡崎邦彦(おかざきくにひこ)。この写真は軍に内緒でこっそり撮った写真だよ。岡崎も同じ物を持っているはずだ。これも持っていきなさい」
「でも、大切なものじゃないの?」
「蒼真にとっても大事なものだ。持っていきなさい」
「・・・・・・判った。ありがとう」
 言って蒼真は写真を見つめる。
(・・・・・・この子が紅葉か。以外に)
「かわいい子だね」
 美春が写真を見ながら言った。
 ギクリとした。心を読まれたのかと思った。
「蒼真の双子の妹とは思えんな」
「せ、先生まで・・・・・・」
 九牙はにやけた目で蒼真を見ている。
「それに優しそうな人だな岡崎って人」
「なんかやんちゃな人みたいだけどね」
 高志と勝までなんか言っている。
「妹さんと会えるように祈っておるよ」
 最後に村長が言った。
「あ、そうだ。蒼真、この剣だがな」
 そう言って九牙は蒼真に剣を差し出す。
「ありがとうございます」
 と、言って受け取った瞬間、

 剣が弾けた。

「うわっ!?」
 弾けた剣は渦のように中心に集まり、1つの結晶となって蒼真の足元に落ちた。蒼真はそれを拾い上げる。
「どうやら、すでに遺伝子の同調(ジェノム・アスト)≠ヘ終わったみたいですね」
 雅人が全てを見通したように言った。
「その剣には蒼真のDNAが組みこまれています。恐らくその結晶が剣の核なのでしょう。蒼真が核に力を使えば剣になるはずです。水と基本構造は変わりませんからね」
「これが、俺の身体の一部ってことか・・・・・・あ、父さんさっきの指輪!」
 雅人は蒼真に指輪を渡した。核をはめ込むと、核の一部が流れ出し、指輪に文字を刻んだ。
湖月(こげつ)♂艪ヘ主と共に』そう書いてあった。
「・・・・・・なるほど、あいつは核を設置するために指輪まで箱に入れていたのか。準備のいいやつだ」
 雅人はこれで全ては告げられたと確信し、言った。
「これで準備は整ったね、蒼真」
「うん。それじゃあ・・・・・・行ってくるよ」
 蒼真は、布切れを持って『水動力の靴』を履き外に出た。
「荷物の中には、この村自慢の携帯食料が入っておる。しばらくはそれでもつじゃろう。金銭は旅立ちの資金じゃ。遠慮せずに持っていきなさい」
「村長・・・・・・本当にお世話になりました!」
 そして蒼真は深く礼をした。
「じゃあ入り口まで送りますか」
 高志達が先頭をきり、ナクラル村の入り口に向かう。
「それでは我々も行きましょう」
 九牙が雅人を車イスまで運び、車イスを押していく。
 旅立ちの時が迫る。
 そして門に着いたとき、蒼真にとって驚く光景が待っていた。
「行ってらっしゃい蒼真」
「無事に帰ってこいよー」
「僕達待ってるからねー」
 老若男女問わず村人全員が蒼真を見送るべく門に並んでいた。
 今回の騒ぎの原因になった少年を、わざわざ見送るために朝早く起きてきたのだ。
「蒼真、君にはまだ言ってなかったな」
 村長が蒼真の眼を見て向き合う。
「こんな小さな村でも、全ての村人が君のために動いている。それは――村は家族だからじゃよ。家族はお互いを支え合わなければいけないのじゃ」
 その一言がどんなに蒼真を救ったか、誰にも判らないだろう。蒼真は込みあがってくる感情を我慢するのに精一杯だった。その感情を隠すようにして無言のまま歩いていく。

 そして村の出口、旅の入口までやってきた。

「・・・・・・この旅には、辛いこと、楽しいこと、悲しいことがあるかもしれない。でも・・・・・・僕はなにがあってもこのナクラル村に帰ってきます! だか、ら・・・・・・」
 蒼真の頬に熱いものが走る。蒼真は顔を上げ、太陽を見た。
「それじゃあ、行ってきます!!」

 日が完全に昇り、村を明るく照らす。
 今日も雲ひとつない、綺麗な青空が広がっている。


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